早池峰山と並び立つ薬師岳(1644メートル)の頂を仰ぎ見る遠野市附馬牛町上附馬牛。県自然公園保護管理員、千葉和さん(40)の木造2階建ての家は自生するカヤ原の中にポツンと建つ。最も近い民家でも約400メートル離れている。
「ただいま」。長女の菜々ちゃん(9)、二女の桃ちゃん(7)が約3キロ離れた遠野市立大出小学校から元気に帰宅した。冬は2人が帰る午後5時ごろには外は暗くなる。家の周囲にネオンや街灯はなく、月の光と家の照明だけだ。「太陽が落ちれば暗くなり、人は家に帰る。人間として当たり前のリズムに忠実な暮らしができる場所を探したところ、遠野に行きついたのです」。千葉さんは91年、北上から遠野に移り住んだ理由をこう説明する。借りた荒れ地を自分で整地し、妻の敦子さん(36)らと手作りの家を建てた。
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千葉さんが「自然のリズム」を強く意識するようになったのは約20年前という。大学卒業後、玉山村の「姫神自然塾」で100日間の自給自足生活を体験した。粗末な掘っ立て小屋で寝起きし、畑を開墾した。山から切り出したまきで暖をとるため、土砂降りの雨になってもまき集めを休むことはできない。小屋で1人寝る夜にフクロウや動物の鳴き声が不安をかき立てた。慣れ親しんだ都市部の生活から抜け出してみると、「人間は自然を操れない。自然のサイクルの中で生きている」と気がついた。その後、世界各国を訪れて理想のふるさとを求めたが、「濃い緑が印象的だった」と遠野を選んだ。
11年前から県自然公園保護管理員として毎夏、早池峰山を巡回する仕事に就いた。早池峰山から眼下に広がる遠野を見渡すと、伐採されたはげ山や開通したばかりの林道が目に入った。「自然と人間と動物が溶け込んだ遠野物語の世界が消えつつあるのではないか」。理想のふるさとにも問題が迫っているように見えた。
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昨年12月、「もっと多くの人に自然を体験してもらい、一緒に遠野の自然を守っていきたい」と市民団体「遠野エコネット」を設立した。市民と行政が協力して、遠野の環境をテーマにまちおこしに取り組む。今年から手始めに、エコツアーや子供向けの自然教室などを開始する計画だ。
エコツアーは、森林観察や農村生活体験などを通して地域の自然資源を観光に生かすグリーンツーリズム。事業から出た利益を環境保全に還元する計画を考えている。千葉さんは「遠野の自然を守るためには、住民と観光客の相互協力が重要」と強調する。
「遠野に特別な自然があるわけではない。しかし伝承芸能、語り部など遠野独自の財産があり、それらと自然が一体となって都会の人を引きつける魅力が遠野にはある」。今年、千葉さんは「遠野エコネット」の活動を本格化させたいと夢を膨らませている。【林哲平】=つづく(毎日新聞)
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